TOEIC®テストにまつわる憶測についての検証

TOEIC指導を始めてはや10年近くが過ぎようとしている。

10年前に比べると、その認知度や利用価値が格段に増えた気がする。
今どき、会話学校や大学でTOEIC講座を開講していないところを探す
のがたいへんなくらいだ。

2004年度に発行されたリクルート系の雑誌の「取りたい資格」の
ランキングでも1000人にアンケートした結果、総合、年代別、性別
すべてのカテゴリーで第1位になっていた。

こんな背景もあって、英語の資格といえば真っ先にTOEIC
あげられる時代になった。

年間約150万人が受験するという、この数にも驚きだ。
同じ人が何回も受験しているとはいっても相当数いることになる。

まさに世はTOEICブームといえるだろう。

ところでこのテストは試験問題を持ち帰らせないので、
いろいろ憶測が飛び交う。

今日はここでこの憶測を検証してみたいと思う。


Q1:同じ問題を使い回ししているのでは?
  何度も受験している人で、記憶力のいい人は
  「あれ、この問題以前出ていたやつだ」という経験を
  した人がいるだろう。そう、使い回ししている。
  TOEIC運営委員会発行のNews letterにもきちんと
  このことが書いてある。

  ただし、どのくらい前までかははっきりしないが、
  少なくともここ2,3年前までくらいのものだと推察される。
  時々、10年ほど前に使われた問題も出てきているようだ。


Q2:最近の公開テストは難易度があがった?

  公開テストはIP(過去公開テストで使われた問題)と比べると、
  問題文が長くなっているし、紛らわしい選択肢が増えたとよく
  言われる。そこでこう思うのだろう。
  答えはNoだ。TOEICは実によくできた試験で、その人の英語力が
  あがらない限りスコアは誤差の範囲内(±25)で動くように
  うまく調整されている。

  実際に、昨年筆者の教え子が何人もIPと公開テストを、間を
  あけずに受験したところ、ほとんどスコアの違いはなかった。
  むしろ皆IPのほうが、点数が低く出ていた。


Q3:問題はどうやって作られているの?

  TOEICの問題というのは、それは手間ひまかけて作られている。
  まずETS外部に散らばっているアイテムライターに依頼
  して問題を作ってもらう。上がってきた問題を、今度は
  ETS内部のテスト担当者が、テスティングパターン、
  使われている語彙、問題文の客観性、ビジネスに関連
  した内容かどうかなどあらゆる観点から、リファイメント
  をかけていく。こうして出来上がった問題を、膨大な数の
  サンプルに解いてもらって、できる人とできない人を
  きちんと区別する良問かどうかの実験を行う。
  ここで悪問は排除される。そしてお墨付きをもらって
  やっと完成へといたる。こうしてできあがった問題は
  貯蔵バンクに入れられ、試験の回ごとにコンピューター
  がシャッフルして問題が選び出される。
  そして、試験会場で私達受験者とご対面。まあ、こんな
  感じだろう。


Q4:市販されている公式問題集は過去問だから実際に
  試験には出ないし、役に立たない?
  とんでもない。もちろん、そのものの問題は出ない。
  でも、しっかりテスティングポイントは同じものが
  ばんばん出ている。
  90年代から問題を追って見ていると、マイナーチェンジ
  はあるものの、それほどパターンに大きなぶれや変化は
  見られない。これは特にPart IIとPart V, VIに当てはまる。

  Part II(質問と応答問題)なら相変わらず5W1Hを中心に、
  付加疑問文、選択疑問文、否定疑問文などは毎回出題されている。

  Part VI(誤文認識問題)も主語と動詞の一致から、接続詞と
  前置詞の混同、分詞、他動詞・自動詞の混同など以前から指摘
  されているパターンがあいも変わらず出題されている。

  よってテスティングポイントを知るという意味で
  公式問題集をやって損はないといえるだろう。


Q5:なぜ企業はTOEICスコアを重視するの?

これにはいろいろ理由がある。
まず最初にこのTOEICというテスト、実は日本の企業の要請で作られた
という経緯がある。客観的に社員の英語力を測れるモノサシを求めて
いた日本企業の依頼で誕生したのだ。
次に、結果が受かった落ちたではなく、点数で表され、細かい能力の
測定ができるところも企業間に広まった理由だろう。英検では同じ
2級保持者でも上のほうと、下のほうではかなりの差がある。
いま一つ客観性に欠けていた。また、どれくらいの点数の人は英語を
使ってどんなことができるかというガイドラインがきちんとしていた
ことも企業にとっては使いやすかったのだろう。そして、扱われている
題材が、国際ビジネスでのコミュニケーション場面を採用しているのも
大きな理由だろう。
そして最後に、実施している機関がTOEFLなどで有名なETSという世界
最大の教育機関であり信頼性がおけたことも一因だろう。

ただしTOEICが世に出て26年が経ち、一回りして、いろいろなことが
わかってきた。それはテストで860, 900点という高得点をとった人でも、
実際の商談などのビジネス現場でいざ話すとなると、うまくできなかったり
して、スコアとスピーキング能力は必ずしも一致しないという現実だ。
(ETSの発表によると.78ぐらいの高い相関があるとされているが)。

最近は特に企業側からのこういった声が大きく、TOEICにもスピーキングを
導入しようとかなり真剣な検討が進められている。近い将来実現しそうな
予感がする。


というわけで、今回はTOEIC®テストにまつわる憶測について検証してみた。
少しでも参考になれば幸いだ。


エース外語TOEICコース (プライベートレッスン専門)
チーフコーチ 兼 特別講師
高橋基治(東洋英和女学院大学助教授)